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2007年
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『四季・遊牧』上映会&「菜園家族」構想の
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インド出身・英国在住の思想家・教育家であるサティシュ・クマールさんが、4月末に来日されるに際して開催される京都での催しに、私たち里山研究庵Nomad(小貫雅男、伊藤恵子)も、「サティシュさんを歓迎する市民の会・関西」の一員として、関わることになりました。
サティシュさんは、1936年、インドに生まれ、9歳でジャイナ教の修行僧となり、18歳の時、還俗。ガンジー思想に共鳴し、若き日に2年半かけて、核大国の首脳に核兵器の放棄を説く1万4000キロの平和巡礼の行脚を行い、その後、1973年からイギリスに定住。『スモール イズ ビューティフル』で知られるE.F.シューマッハーと交流。自然に対する愛、相互関係・共生関係に基づく平和への新しい展望を示し、現在、イギリスで雑誌『リサージェンス(再生)』編集長を務めておられる方です。
サティシュさんは、また、1991年、イギリス南西部に、真に持続可能で豊かな社会をつくり出していくための国際的な教育機関、シューマッハー・カレッジを創設。ここでは、机上の知識や理論を超えて、共同生活の中で実際の行動や経験から学ぶことが重視され、50人程度の小規模で、生徒から講師、スタッフまでが、ともに掃除や料理等、生活の基盤となる活動に参加しながら、開発・発展、食、経済、組織運営、精神的成長、持続可能性、平和、平等などについて総合的に学んでいるそうです。カレッジ専従講師の他、様々な分野の第一人者(バンダナ・シヴァさん、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん等々)も、短期講義をおこなっており、2006年までに、延べ88ヵ国の約3000人(18〜80歳)の人々が学んできたそうです。
世界各地に講演の旅にも出かけられ、大変意義深いご活動を続けておられるサティシュさんですが、実は、私たち自身は、今回の来日をきっかけに声をかけていただくまで、存じ上げませんでした。
お誘い下さったのは、「平和の経済学」を探求しておられる立命館大学経済学部の藤岡惇先生です。藤岡先生とは、「菜園家族」構想の関連で、数年来、交流させていただいているのですが、そのきっかけは、何と沖縄は八重山の竹富島。「うつぐみ」(=共同の精神)の伝統と、本土復帰(1972年)の頃、乱開発から風土に根ざした暮らしを守るために島人たちが定めた「憲章」(=売らない・汚さない・乱さない・壊さない・生かす)とを礎に、独自の地域づくりに取り組んできたこの島を訪問された藤岡先生が、私たちも『四季・遊牧』の沖縄上映の旅(1999年夏)の中でお訪ねして以来、親交のある喜宝院蒐集館(館長:上勢頭芳徳さん)で、「菜園家族」構想のごく初期の小冊子『菜園家族酔夢譚』がおかれているのを目にされたのがはじまりで、これもまた不思議なご縁です。
藤岡先生は、アメリカ経済論・平和の経済学がご専門で、『グローバリゼーションと戦争―宇宙と核の覇権めざすアメリカ―』(大月書店、2004年)の近著があり、「くずれぬ平和(ディープ・ピース)」を支える社会経済システムはいかなるものかを探求しておられます。同時に、近代の「主流派経済学」の前提する人間観を克服すべく、人間活動を、従来の経済成長率など数値化された指標のみでは捉えきれない、社会・歴史の枠組みとの連関や、“いのち”そのもの、精神の諸領域にも光を当てて捉え直し、自然・宇宙の中での人間の存在といった壮大で総合的な視点から今一度、経済学を再構築することを試み、基礎経済科学研究所(京都市)の自由大学院で、学生・院生・市民の方々とともに、「人間発達の経済学」を長年にわたって考察し続けておられるのです。
次代を担う若い人たちを念頭において、経済学教育にも尽力されており、その思いは、「マルクス・レノン主義」というユニークな発想(「“人間発達の経済学”をどう発展させるか―唯物論的アニミズム<=弁証法>の世界観のうえで」、『経済科学通信』NO.110、2006年6月)や、「宮沢賢治ならば、どんな経済教育を実践しただろうか」(『経済教育』NO.25、2006年)との異色の論文名からも汲み取ることができます。
また、比良山麓のログハウスで、「菜園家族」を実践されているという一面ももたれているのです。
さて、この藤岡先生の授業の一環で、昨2006年12月初、「菜園家族」構想の講義をさせていただいたのですが、思いのほかの小春日和、うっかりどこかにマフラーを置き忘れてきてしまいました。あきらめかけていた頃、先生からご連絡があり、やさしいご配慮でご親切にも送り届けて下さいました。その時、くるまれるように同封されていたのが、サティシュさんの新著『君あり、故に我あり―依存の宣言―』(尾関 修・尾関沢人 訳、講談社学術文庫、2005年。原題“YOU ARE THEREFORE I AM : A Declaration of Dependence”)だったのです。
「依存」という言葉は、普段、あまり肯定的には捉えず、どちらかというと「独立・自立(independence)」の方ばかり考えていたので、まず、本の題名からだけでも、真意はどういうところにあるのだろうと、いろいろと思いがめぐりました。
また、折しもBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国のめざましい経済成長が、今後、世界的にも大きな影響力をもつものとして注目され、特にインドについては、ちょうどNHKスペシャルでも2007年1月末に三夜連続で、グローバリゼーションの波とIT産業の急成長、大衆消費社会化と超巨大市場の形成などについて取り上げられるなど、マスメディアでの報道も多くなってきている今、農に根ざした「清貧」とも言えるガンジー思想の水脈をもつインドご出身の思想家が、どのように自国の変貌と世界構造を捉え、未来へのどのような見解をもっておられるのか、大変、興味のあるところでした。
なぜならそれは、インドという「外国」で起きていることというよりも、グローバル経済化による自由貿易・世界市場にますます呑み込まれてゆく中で、地域地域に根ざした暮らしや仕事のあり方がすっかり壊れてゆく瀬戸際にある日本の私たち自身の今とこれからそのものを見つめることであり、また、これまで研究調査をしてきたモンゴルについても、1990年代初頭の市場経済への急激な移行に伴って、経済・社会が混乱し、弱肉強食の競争原理と拝金主義が蔓延する中で、人々の精神の奥深いところまでもが変わってしまったこの10数年間を顧みること、さらには、日本をはじめ世界の先進国が「拡大経済」を指向し続け、新興諸国までもがそれに加わってくる中で、その周縁にあるモンゴルは、いよいよ本格的に地下資源の格好の収奪先という立場に追い込まれてゆく危険性の高い今、「開発」、「発展」、「豊かさ」とは一体、何なのか、そして今後どのような未来をめざすのか、根本的に考え直すことに繋がると思うからです。
そんなことを考えつつ、また「菜園家族」構想と対比しながら、読ませていただいたサティシュさんの『君あり、故に我あり』。尾関修先生(横浜商科大学)と奥様の亜紗世さん、息子・沢人さんの家族共同による名訳で、ぐいぐいとその世界に引き込まれ、じっくりと思考を深めながら読むことができました。表現や意味内容にわたって、どれだけ吟味を重ねられたことだろうと、そのご苦労を推察し、感謝するばかりです。
グローバル経済の対抗軸として、ガンジーの提唱した「地域経済(スワデーシ)」の思想を今一度、現代に甦らせ、それを地域地域で確立してゆくことの重要さと、それが平和を築く大切な礎になることを、インド農村で脈々と続けられている「アーシュラム」等、数々の地道な取り組みの例から、あらためて感じました。
また、「開発」や「援助」に関しても、2001.9.11との関連で、非常に鋭い視点から指摘されているのが印象的であり、共感するところが大きかったのです。
そして3月初、いよいよサティシュさんの来日を記念する京都での催しが具体化してきました。藤岡先生から、「歓迎する市民の会・関西」が結成され、来日を1ヵ月後に控えた3月25日(日)には、翻訳者の尾関先生ご夫妻をお迎えし、“準備シンポジウム”が開かれることになったとのご連絡を受けました。そして、この“準備シンポジウム”で、里山研究庵Nomadの私たちは、「菜園家族」構想の観点から報告をすることになりました。
同志社大学今出川キャンパス・寒梅館の一室で開催されたこの会には、「サティシュさんを歓迎する市民の会・関西」呼びかけ人の藤岡先生、和田喜彦先生(同志社大学・エコロジー経済学)、佐々木健先生(京都グローバリゼーション研究所)、平野慶次さん(日本ホリスティック教育協会)をはじめ、立命館大学国際平和ミュージアム「平和友の会」の神原さん・庄田さん、同志社大院生の梶原さんら、様々な分野の24名の方々がご参加されました。
以下は、その時の報告の骨子です。
【サティシュ・クマールさん来日準備シンポジウム・報告レジュメより】 サティシュ・クマールさんを迎え あらためて「菜園家族」構想を考える
☆と き:2007年3月25日(日)
☆ところ:同志社大学今出川キャンパス・寒梅館 小貫 雅男 里山研究庵Nomad 主 宰
伊藤 恵子 里山研究庵Nomad研究員 はじめに 1.「辺境」からの発想 (cf.サティシュ・クマール)
2.「構想」の時代認識
3.資本主義超克の足跡(19世紀〜20世紀)
4.あらためて自然界の中で人類史を考える 図:自然界〜 「適応・調整 」の原理〜
自然界を貫く生成・進化の普遍的原理
5.週休5日制の三世代「菜園家族」構想
図:動物細胞の模式図
※賃金労働者家族は、細胞質を失い、核と細胞膜だけからなる、
「森と海を結ぶ流域地域圏」という人体
図:森と海を結ぶ流域地域圏(エリア)の団粒構造
※「菜園家族 」構想は、干からびた細胞(=「家族」)に、
週休5日制とは
※上記の展開過程における槓杆は、人間社会を 「指揮・統制・支配 」の原理から 6.自己鍛錬と「地域」変革主体の形成
「地域」とは ; グローバル経済の対抗軸としての「地域経済(スワデーシ)」
7.21世紀、近江国循環型社会
むすび
☆参考文献:『君あり、故に我あり―依存の宣言―』(サティシュ・クマール著
☆参考映像作品:『四季・遊牧―ツェルゲルの人々―』(DVDダイジェスト版,
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続いて、この“準備シンポジウム”では、サティシュさんについて、日本ホリスティック教育協会の平野慶次さんから、クリシュナムルティやモンテッソーリとの関連でコメントがありました。
話し合いの中で、大阪外国語大学の今岡良子先生(モンゴル遊牧地域研究)から、直前に訪問された島根県温泉津(ゆのつ)で、2006年1月から老舗旅館を引き継いだJターンの若女将や、若者たち、地域の人たちの間ではじまっているという試みの一端について、ご紹介がありました。
これらのことを考えあわせると、時代状況の中で、現在の競争至上主義社会とは違う新しい社会のあり方や人間観をもとめて、各地で様々な模索や議論が生まれ、動き出していることをあらためて感じるとともに、いつの間にか次々とおしすすめられてゆく「教育改革」なるものとは違った視点から、子ども・若者が本当にのびのびと育つ真の「教育」とは何かを考えることが、今、たいへん重要になってきていることを痛感します。
サティシュさんが、ユニークな学びの場の創造に力を入れておられることの意義を、あらためて考えさせられるのです。
夕食会では、翻訳者である尾関先生ご夫妻を囲み、楽しく有意義な交流のひとときを過ごすことができました。
“準備シンポジウム”の後、私たち里山研究庵では、1ヵ月後にサティシュさんが来日された時、日本からのひとつの発信としてお手渡しし、有意義な交流のきっかけになればと、この“準備シンポジウム”での報告レジュメの英訳に取り組み、来日を心待ちにしました。(伊)
☆サティシュさん来日を目前に控えた最後の実行委員会
*サティシュさん来日記念講演会 in 京都(4月25日)については、こちらに
掲載いたしました。
**マクロビオティック月刊誌『むすび』(正食協会 発行)の2007年7月号(6月中旬
発行予定)に、 「共生と平和の哲学」と題して、サティシュさんの来日特集が組
まれるそうです。
「菜園家族 」構想との関連で、小貫(里山研究庵Nomad)も寄稿する予定です。
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